石井 愛子(いしい あいこ)さん
【第3回コンテスト 一般の部 3位】
食品・飲料やフレグランス・化粧品の香料及び素材や技術ソリューションを提供する会社、ジボダンジャパンにお勤めの石井愛子さん。
以前は洋菓子メーカーの商品開発担当として、スイーツの開発に携わり、ジャパンケーキショーなどのコンクールに出ることもあったそうです。
そんな石井さんの作品『28品目アレルゲンフリーのザクザクチョコベリーケーキ』は、スーパーで手に入りやすく、かつコンタミリスクがなるべく減らされています。
そして美しい見た目とは裏腹に、各パーツは一般のご自宅でもおいしくかんたんに作れるように工夫が凝らされています。
アレルギーっ子のお母さんお父さんがご家庭で作ることを徹底的に考え抜かれたスイーツ。
完成までに試作はもちろん、原材料選びからたくさんの店舗に足を運び、試行錯誤を重ねたそうです。
そんな『28品目アレルゲンフリーのザクザクチョコベリーケーキ』、開発の経緯と石井さんの思いをお伺いしました。
28品目不使用のスイーツレシピはなかなか見つからない。
だからこそ、みんなで食べられるお菓子の開発に貢献したかった。
ー石井さん、どうぞよろしくお願いいたします!どのようにしてアレルギー対応スイーツコンテストを知ったのでしょうか?
公募ガイドというサイトを見て知りました。
これまでの自分のスキルや経験を活かして、食物アレルギーで苦しんでいるお子さんたちのお役に立てればいいなと思って。
私自身も食品ではありませんが、ひどいアレルギー持ちで子供の頃は辛い思いをしましたし、母は私の症状がひどくならないよう徹底して掃除するなど苦労をしたと思います。
原因を取り除くというのは簡単そうに見えて地道な苦労があることを実感していました。
コンテストに参加しようと思ってインターネットや本を調べてみると、特定原材料等28品目不使用のスイーツはなかなか見つからなくて…
どれか1品目は使われていることがほとんどでした。
28品目全部が食べられない子供はあまりいないと思いますが、それにしても他の情報に比べてアレルギー対応レシピは数が少ないなと思ったんです。
アレルギーで困っている子供たちも安心して、みんなで食べられるようなお菓子が作れたらいいな。
そういう開発にちょっと貢献できたらな、と思ってアレルギー対応スイーツコンテストへの参加を決めました。
各ご家庭でレシピを活用して、作ってもらえたら…。
ーそうだったんですね。『28品目アレルゲンフリーのザクザクチョコベリーケーキ』、本当に味も見た目も素敵です!
また、決勝審査の時は、私たち審査員が通るとにこやかに作っている工程のご説明をしてくださいましよね。ありがとうございました^^
決勝審査はお子さま審査員も見に来てくれたのでテンションが上がっていて。おしゃべりクッキングみたいな感じになってしまいましたね。
ー審査では、緊張などはされなかったのでしょうか?
そうですね、特に緊張はなかったです。
自分のレシピを公開いただいて、それを見て各家庭で作ってもらえることがとても嬉しいなということで頭がいっぱいだったので、あまり緊張はありませんでした。
特殊な材料を使えばお家で作りにくくなってしまう。
だから大手の店舗でも手に入って、なるべくコンタミリスクが少ないものを。
ープレゼンをお伺いして、小さなお子さんがいるご家庭で作ることを徹底的に想定されていらっしゃるんだなと感じました!
普段、そういうご家庭に関わることがあるのでしょうか?
そういう機会は多くはありませんが、開発が仕事なので「商品を使う人のことを考える」というのは、習慣になっているのかもしれません。
とにかく徹底して、「原料の厳選」と「誰でも作れる」の2点を考えました。
ーそうだったんですね!原料も、なるべくコンタミの可能性が少ないメーカーの材料を選ばれたとのことですが、探すのが大変だったのではないでしょうか?
そうですね。
家の近所にある大きめのスーパー、赤ちゃん本舗にも行きました。小さなお子さん向けのお店には、結構アレルギー関係の食品が置いてあるので。
オーガニック食品のお店も見たり、インターネットで調べたりもしたのですが…。
特殊な材料を使えばコンタミのリスクは少なくなりますが、一般家庭で人が手に入らないものになってしまう。
だから、ちょっと途中で考え直して、イオンとかライフとか、大手の店舗で取り扱っているようなものだけを使って作れるようにしました。
それでもなるべくコンタミのリスクがないものを材料として選びたかったので、スーパーのパッケージをくまなく読んで探しました。
特定原材料の項目はもちろん、裏面の「本品は卵、乳、小麦を含む商品と共通の設備で製造しています」などの表示も必ず確認しました。
さらにメーカーのホームページを確認し、製造でのコンタミなのか、そもそも畑からのコンタミなのかなど深く掘り下げて調べました。
大きな役割を担う卵・乳・小麦が使えないのは本当に難しい!
ーそんなに細かく調べられていたんですね!石井さんの作品は、卵・乳・小麦のみならず28品目不使用ですが、試作の過程で大変だったことはありますか?
…本当に難しかったです!
私は製菓学校を出ていますが、洋菓子は卵と乳と小麦が基本だと教わっています。
焼き菓子で、バターも卵も小麦も使わないで作るレシピは、あまりありません。
本屋さんとか図書館とかネットでいろいろ検索して、見つかったものはイモ・クリ・カボチャに砂糖を入れる感じのお菓子。
これなら卵・乳・小麦不使用でも作りやすそうですが、このタイプのレシピはたくさんあることがわかったので、イモ・クリ・カボチャを使う以外のスイーツを考えようと思いました。
新しいレシピを作るのは一般のご家庭だとなかなか難しいと思うので、そういうところで貢献きたらいいなあと。
小麦粉の代わりにホワイトソルガムもいいかなと最初は考えましたが、一般のスーパーには売っていない。
だから米粉を使うことにしましたが、米粉は小麦粉とは食感や物性がまったく違い、同じようには使えない。
そして卵に代わるものもありません。卵を使うと、ふっくらしっとりちょうど良い柔らかさに仕上げられるのに。
大豆や豆乳も使いたくなりましたが、やっぱり28品目不使用にしたい。
だからひよこ豆を使いました。
でも、ひよこ豆ってボソボソしちゃうんですよね。
普段だったらボソボソしても卵やバター、生クリームを使えばしっとりできますが…。
大きな役割を担う卵・乳・小麦が使えないというのは、本当に難しかったです。
ーそうだったんですね。
お話を伺って、すっごく計算し尽くされている作品だなと改めて感じました。
『28品目アレルゲンフリーのザクザクチョコベリーケーキ』のレシピ全てを再現しなくても、パーツだけでもかんたんに作れておいしいというのも嬉しいですね!
そうですね!
ココアスポンジ生地、バニラクッキー生地、ベリークリーム、チョコクランチは、それぞれのパーツだけを作って食べてもおいしいように作りました。
1つのパーツなら、どれも簡単なので作業時間はそれぞれ20分くらいです。
日常的に作ってもらえる菓子を目指したので、組立てないと食べられないものではなく、1つのパーツだけでも参考にできるレシピを目指しました。
ご家庭で気軽に作って食べてほしかったので、フルーツ選びもいろいろ考えました。
桃とかオレンジは28品目に該当しますし…。1年中、手に入るバナナも28品目。
最終的に、冷凍のミックスベリーを選びました。
28品目不使用で、原材料が手に入りやすくなるべく安全。かつバラエティに富んでいる。
そんなスイーツを実現したくて、何度も何度も試作しました。寄り道はたくさんしましたね。
フルーツ以外にも、米油やてんさい糖、米麹の甘酒など、なるべく体に良さそうな食材を選んだところもこだわりです。
お砂糖が入って甘ければお菓子。
かんたんに気軽にお菓子作りを楽しんでいただければ
ーありがとうございます!
最後に、アレルギーっ子のお父さんお母さんへメッセージをいただけますか?
選択肢が少なくて辛いことも多いと思いますが…
「お菓子はこうじゃなきゃいけない」とか「きれいじゃなきゃいけない」なんて思わずに、「お砂糖が入って甘ければお菓子」ぐらいの気持ちで、気軽にお子さんと作るのを楽しんでいただきたいなと思います。
普段のお食事を作るだけでも大変だと思いますし。
それに加えて、きれいなケーキを作ってあげなきゃとか思うとすごい辛くなってしまうと思うので。
「甘ければお菓子」ぐらいな感じで楽しんでいただきたいなって。
お子さんには愛情は伝わっていると思いますし、「こうじゃなきゃいけない」と自分で思って苦しくなったりもしないでほしいなって思います。
ー大切ですよね。アレルギーのあるなし関わらず、すごく大切だと感じます。
お菓子の仕事をしていると、やっぱり見た目を大事にしますよね。
以前は私も、シュッとしたケーキや凝ったチョコレートを作って、ジャパンケーキショーなどのコンクールにも出していました。
パティスリーのケーキは美しい方が良いと思います。
だけど、買えるお菓子の選択肢が少ないアレルギーっ子のご家庭には、凝ったケーキよりも簡単なレシピがあった方が助かるのではないかと思うんです。
簡単でも、愛情や、日常的に一緒に作ったり食べたりする時間とか、そういうもの方が大切だなと思い、シンプルなレシピにしました。
そういうところを評価してくださって、今回3位になれたと思っているのですごく嬉しいです!
ーそんなふうに感じていただけて、私たちもとても嬉しいです。ありがとうございました!